EIZO E151Lについての物語

ー最近かつての相棒Macintosh LCIIIのレストアを行っています。基盤の埃を払い、部品を一つづつ付け替えていく作業はくたびれた相棒とのコミュニケーションだー

ヒロキントッシュ

 

Macintosh LCIIIは当時13インチのCRTモニタApple Color Monitorが乗っかっており、使わなくなってからはLCIIIと一緒に保管していた。カリフォルニアに住んでいた私にある日、母から国際電話がかかってきた。母は家中のCRTの廃棄処分をしているとのことでこのモニタも槍玉に上がっていた、惜しいと思いつつもあまりの母の勢いに渋々処分を受け入れてしまった。当時、家電の廃棄方法が厳格化されつつあり、連日マスコミがブラウン管の処分が有料化すると大騒ぎしていた様だ。母の口ぶりも今捨てないとCRTの処分に莫大な費用がかかる様になるというものだった。もし、今も保管してあれば今回、間違いなくLCIIIと一緒に修理していただろうにと悔やまれる。

 

さて、今回のレストアにあたって、いくつか準備したものがある。その一つが、EIZO E151L 液晶モニタだ。

EIZO E151Lの外観

こいつは某所からの拾い物。例に漏れず黄色変異し、埃をかぶっていたところを発見、救出した。LC IIIと同様に全てのプラスチックパーツの清掃とRetr0brightを行い上の写真のように美しい外観を取り戻すことができた。分解すると電子基板は驚くほど綺麗で煤けの一つもない新品の様な状態であった。その過程で気づいたが、冷陰極管の接続コネクタが斜めに刺さっておりおそらく初期不良として使われずに放置されていたものではないかと勝手に想像している。

 

E151LはEIZOの液晶モニタ第一号であるE141L(13.8inch LCDモニタ)と同じ年に発売された一回り大きな15インチLCDモニタだ。当時、世間の認識はCRT(ブラウン管)が実用上の最適解であり、液晶モニタは次世代の表示器というものであった。CRTであれば1280x1024の15inchフラットモニタでも6~7万円の実勢価格であったところ、E141Lのメーカー販売価格は39万8千円、E151についてはほとんど情報が残っておらず、当時の販売価格も不明だが40万円台後半であったのではないかと推測できる。それだけ高額であった一方で信頼性や寿命に対しては正に未知数。EIZOにとって液晶モニタ第一号の発売は社運をかけた大きな挑戦であっただろうと思われる。このことは、EIZOにまつわる50のエピソードの本文からも読み取れる。

 

液晶モニタであることを差し置いて、このモニタの最大の特長の一つはデザインであることは間違いない。見た目が美しいことは工業製品にとって機能と同じ位大切なことだ。この製品の美しさは製品自体に落とし込まれる影にある。土台部分の円盤の前面に切り込みがある理由はこの影の立体感をさらに強調するためだろう。表示部直下と土台部分の周囲を囲むように細やかな波のパターンが配置されており、影によって製品に存在感を与えている。この波の形状は電気信号のメタファでもあると理解できる。

モニタの横面

その証拠にモニタの横面にも敢えて本体輪郭の内側に波の形状が刻まれている。波と液晶パネルの間の隙間は電気信号と映像のインターフェイスを意味するものだろう。この装置の役割を端的に表現するデザインと言える。

背面の美しさ

美しさへのこだわりは背面まで一貫しており、いささかの隙もない。波のパターンは土台から脚部を通りモニタの中心部へと運ばれる。最終的にパネル部分の裏側に整然と並ぶ丸い窪み、つまりピクセルとなって表示されるという訳だ。このストーリこそこのデザインが表現しているものであり、美しさを生み出す鍵であると思う。このデザインを手掛けたのは日本を代表するプロダクト・デザイナーである川崎和男氏だ。氏のホームページにもE151Lが紹介されている。

 

一方、製品の機能的な特長は映像入力が2つ設けられているということだろう。背面のアクセスパネルを外すとSIGNAL 1/2の2系統のRGBポートが現れる。液晶の強みである省スペース、その強みを最大化する製品仕様がこの2系統入力であったのであろう。

背面の入力ポート

この二つの入力は前面の「SIGNAL 1・2」ボタンでワンタッチで切り替えることができ、2台のコンピュータを接続できる。アナログ入力が2つ備わっているモニタは最近では見かけないため、古いPCや機材との組み合わせでは今後も活躍してくれそうだ。

一番左が切り替えボタン


E151Lのネイティブ解像度1280x1024に対して、Macintosh LCIIIでは3200色表示を640x480解像度で行うがこの機種では内部のスケーラーによって全画面表示することができる。

Macintosh LCIIIの上に設置したEIZO E151L

Macintosh LCIIIとの組み合わせでは15インチは少し大袈裟だ。実はヒロキントッシュは上で触れた第一号機であるE141Lについても所有しており、そちらの方がLCIIIにはマッチすると思われる。ただし、こちらはビネガーシンドロームによって表示画面が傷んでしまっているため、修理までにはもう少し時間と手間がかかりそうだ。